私の薦めるSFたち(海外編)  書誌的事項だけでいいとのこと。変に先入観を持たせないためにもその方がいいのかも知れません。しかし、やっぱり紹介するからには一言入れたい。やはり私は「駄弁者」です。 なおH=ハヤカワ文庫、S=創元SF文庫です。ハードカバーは略さず「早川書房」「東京創元社」と 書きます。「*」マークは私のホームページに記載があることを示します。 −−−ではまずアメリカSF黄金時代を代表するビッグ3の著作から。−−− ・ロバート・A・ハインライン「夏への扉」(H)  紹介の要もないとは思います。誰に聞いてもたいてい出てくる作品。一応タイムマシンものですが、ジャンルはあまり考えなくても読めるでしょう。実のところハインラインはあまり読んでないので他に思いつくものがありません。短編なら「月を売った男」(「デリラと宇宙野郎たち」*(H)所収)も古風ながら良。未読長編で有名なのは「宇宙の戦士」(H)、「異星の客」(S)と言ったところでしょうか。 ・アイザック・アシモフ「鋼鉄都市」(H)or「われはロボット」(H,S(題「わたしはロボット」)  アシモフはSF、非SF合わせて著書が400点を超えるという多作家ですが、数多い中でどれか選んで紹介するならロボットものでしょう。この作品群で基本設定となる「ロボット三原則」は有名。「鋼鉄都市」は人間とロボットの刑事コンビが主人公で、ミステリーファンにも薦められます。  アシモフの代表作には「ファウンデーション」(H,S(題「銀河帝国の興亡」))シリーズという宇宙史ものもあるんですが、こっちは最低で3冊、シリーズ全部読むならプラス4冊こなさないといけないのでパス。「眉村卓ワンダーティールーム」店長女史はアシモフならこれ、と言っています。 ・アーサー・C・クラーク「幼年期の終わり」(H,S(題「地球幼年期の終わり」))  ほめるにしろけなすにしろ、SFを語る上で避けては通れない作品です。内容は、まあ読んでみてください。中学生で初めて読んだときは夢中になりました。クラークのSFにはこの作品や「2001年宇宙の旅」のように遠い未来まで視野に入れたスケールの大きい作品と、比較的近未来を扱った科学的にも地に足の着いた作品の2種類があります。後者の類では「渇きの海」*(H)が傑作。 −−−あとは思いつくままに。−−− ・フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」(H)  映画「ブレード・ランナー」の原作と言えば通りがいいでしょう。もっとも物語の感じはだいぶ違いますが。アクションものの体裁をとりながら「人間とアンドロイドの違いとは何か?」という疑問を織り込んだあたりが人気の元です。  ディックは日米にカルト的なファンを多く持つ作家。たまに暗かったり意味不明だったりで、私は正直あまり好きな方ではないのですが。他に有名な作品としては、歴史改変もののはしり「高い城の男」(H)などがあります。 ・スタニスワフ・レム「ソラリスの陽のもとに」(H)  ソ連・東欧系でもっとも有名なSF。人間と異星人が出会うSFの多くは、共存するにしろ戦争するにしろ、とにかくコミュニケーションが成立しているのが前提ですが、その前提を疑ったのがこの作品。私には結構難解で、初めて読むSFとしてはすこぶるとっつきが悪いと思うのですが、アメリカ以外の作品も入れたかったし、人気も高いので。 ・ジェイムズ・P・ホーガン「星を継ぐもの」(S)  人呼んで「5万年のアリバイ崩し」、謎解き系SFの傑作。紹介するのを5点に絞っても入れておきたい作品です。  彼ホーガンのSFのようにSFのS、すなわち科学的な設定や展開を作品のメインテーマにしている作品を「ハードSF」と呼びます。ホーガン以外ではロバート・L・フォワード「竜の卵」(H)やグレゴリィ・ベンフォードの諸作品(全部H)が代表的。未読ですが90年代に入ってからはスティーブン・バクスターの作品が話題になりました。邦文では石原藤夫「ハイウェイ惑星」*(H・おそらく品切)や堀晃「遺跡の風」*(アスペクトノベルズ)などが知られています。 ・ウィリアム・ギブスン「あいどる」(忘れた)  80年代SFを特徴づける「サイバーパンクSF」、その代表作家の最近作。挙げておいて無責任ですが、じつは私はまだ読んでいません。  「サイバーパンク」というのは、ええと「知恵蔵」では「人間と機械がダイレクトに融合した社会をラジカルに描いて話題になった」云々、ということが書いてありますね。…難しいことはともかく、ハッカーが脳みそに電線つないでコンピュータと交信していたら、それはサイバーパンクか、その影響下にある作品と思っていいんじゃないでしょうか。ギブスンはこの種の作品の嚆矢「ニューロマンサー」(H)で一躍有名になりました。私自身は「ニューロマンサー」は読みましたが、あまり好きではありません。この「あいどる」は結構評判いいですが…。 ・オースン・スコット・カード「エンダーのゲーム」*(H)  やはり私としては彼の作品は最低一つ紹介しておきたいですね。もっともカードに深い思い入れがなくても、この作品を名作に挙げる人は多いでしょう。天才少年が主人公の戦争SFという外見とは裏腹に、その活躍と成功ではなく内面的葛藤が豊かに描写された作品です。  他にもカード作品は少年少女を主人公とした作品が多いです。とくに戦争ものがイヤな人、美少年が好きな人には「エンダー」より「ソングマスター」*(H)をお薦めします。 ・ロバート・J・ソウヤー「さよならダイノサウルス」or「ターミナル・エクスペリメント」*(両方H)  90年代以降デビューの作家で気に入っている人を挙げるとすればこのソウヤーです。「さよなら〜」は恐竜絶滅の謎に奇想天外な答えをあたえるタイムマシンもの。「ターミナル〜」は…ここで説明すると長くなるので、とりあえず読んでみてください。 ソウヤーの作品はメインテーマもさることながら、話の流れには直接関係しない小ネタが絶品。細かいところで笑わせてくれます。実は私のイチ押しは上の2作品ではなく邦訳第一作「ゴールデン・フリース」(H)なのですが、すでに品切です。残念。 −−−続いて女性作家の作品を3連発−−− ・アーシュラ・K・ル・グィン「闇の左手」*(H)  厳冬惑星の両性具有人社会を描いた名高い作品。SFというよりファンタジーに近いものがあります。  ル・グィンと言えば「ゲド戦記」の作者として有名。SFでは「闇の左手」の他に、個人の所有権を認めないユートピア社会を描く「所有せざる人々」などがあります。 ・アン・マキャフリー「歌う船」(S)  先天性の障害で機械の助けなしには生きられないが宇宙船の「脳」として活躍する少女の話。女性に人気のある作品です。この「歌う船」にはマキャフリーと他の作家との共著で続編が3、4作あります。それほど人気があるわけですが。  他に「パーンの竜騎士」(H)もファンの多いシリーズです。 ・コニー・ウィリス「ドゥームズデイ・ブック」(早川書房)  歴史研究のため中世のイギリスにタイムスリップする主人公。当時のイギリスは黒死病が大流行する直前の時代。そして主人公が後にした未来でも…。  かなり大部だがそれを感じさせない巧さのある作品です。著者コニー・ウィリスはフェミニズムSFからユーモア作品までこなす幅広い作風が売り。そのバラエティの豊かさは短編集「わが愛しき娘たちよ」(H)からも窺えます。 −−−短編をこれも3点。−−− ・トム・ゴドウィン「冷たい方程式」(「冷たい方程式」*(H)に所収、「世界SF全集」短編・世界編(早川書房)にも所収)  緊急救難用の宇宙船には余分な質量を乗せる余裕は全くない。密航者などいようものなら即「船外投棄」。しかしその密航者が……だったら?  ひとつのシチュエーションを甘えることなく追求した短編の名作。トム・ゴドウィンはこの作品一つでSF史に名を残しました。 ・ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア「たったひとつの冴えたやりかた」(「たったひとつの冴えたやり方」(H)に所収)  SFのプロ・ファンが投票する「SFマガジン・オールタイム・ベスト」で第1位の作品。「泣ける」系の作品ではダニエル・キイス「アルジャーノンに花束を」(短編版は「世界SF全集」短編・世界編に所収。長編版は早川書房より)と双璧をなします。私にしてみればややセンチメンタルにすぎるとも思うのですが。それにカバー絵や挿し絵に抵抗があって最近人に借りるまで読んでいませんでした。  ティプトリーは短編の名手として有名。他にも「故郷まで10000光年」「愛はさだめ、さだめは死」(両方H)などの短編集があります。 ・ジョン・ヴァーリィ「ブルー・シャンペン」(「ブルー・シャンペン」(H)に所収)  人工骨格で四肢麻痺患者から一転人気スターになった少女の、苦い代償とは…。ってこれもちょっとセンチメンタルな作品ですね。そういう作風ばかりがいい訳じゃないんですが。  ヴァーリィには「残像」*(H)という短編集もあって、この表題作「残像」も障害者を扱った作品です。こちらはかなり官能的。 −−−最後に旬のものを−−− ・ディヴィッド・ブリン「ポストマン」(H)  今度ケヴィン・コスナー監督・主演で映画化される作品です。私もこれから読むんですが。  ディヴィッド・ブリンには他に遺伝子改造されたイルカやチンパンジーが人間とともに異星人相手に活躍する「スタータイド・ライジング」「知性化戦争」(両方H)や環境問題を正面にすえた大作「ガイア」(H)といった作品があります。 −−−おわりに−−−  かなりたくさん紹介しましたが、これでも足りない、と言う人は多いでしょう。いま、ちょっと考えただけでも4、5作は思いつきます。  いちおう、基準としては第1に「私が読んで面白かったもの」次に「一般に評価が高いもの」を考え、ふるい落とすために「長いシリーズは極力避ける」ようにしました。 参考・「SFハンドブック」(H)   ・SFマガジン98年1月号「98年オールタイム・ベスト」