1951年、アメリカ西海岸ワシントン州リッチランド生まれ。ブラジルでのモルモン教布教活動、戯曲の執筆などを経て、1977年、短編版「エンダーのゲーム」でSF界にデビューする。「アナログ」誌に掲載されたこの作品は大好評を博し、J・W・キャンベル賞を受賞。ファンダムを経由していない彼の登場は、アメリカSF界を驚かせた。その後も多くの短編を発表。79年に処女長編「神の熱い眠り」、80年に「ソングマスター」を上梓し、人気作家としての地位を確立する。
80年代前半、サイバーパンクが台頭しつつあった時期は作風が当時の風潮に合わず、スランプを余儀なくされる。しかし、1985年に発表した長編版「エンダーのゲーム」がヒューゴー賞・ネビュラ賞を獲得(この2賞は米SFで最も有名な賞で、例えは悪いが直木賞と芥川賞をそれぞれ想像してそう遠くはない)。さらにその続編「死者の代弁者」が翌年のヒューゴー・ネビュラ両賞も受賞する。2年連続のダブル・クラウンはSF史上初の快挙であった。その後は長編を中心に「反逆の星」(同名短編の長編化)、「アルヴィン・メーカー」シリーズ、「第七の封印」などを発表。また連作短編には「辺境の人々」がある。
90年代に入ってからも順調。エンダーシリーズは第3作「ゼノサイド」、第4作「Children of the Mind」(完結編)が上梓された。モルモン経を元にした別シリーズ「帰郷を待つ星」も完結している。またSF、ファンタジーのほかに評論、レビューなどでも活発な活躍をしている。
彼の作品ではSFのS、つまり科学はあくまで「人間」を描く際の舞台設定、小道具にとどまり、主眼に置かれることは少ない。この登場人物、物語性重視の作風は広い層の読者を惹きつける一方で、ハードSFやサイバーパンクの立場からは批判を受ける原因になった。とくに81年、T・M・ディッシュの評論に始まる「LDG論争」は有名。ディッシュはカードらの作品が古くさいSFのアイデアを使い回しした単なる娯楽作品にすぎないと批判したのであった。彼らはファン投票で決まるヒューゴー賞やプロ作家の投票によるネビュラ賞の受賞しか頭にない、だからヒューゴー賞が発表される労働者の日(Labor Day )にちなんで、「Labor Day Group」(すなわちLDG)と呼ぼう、と。カードはSFを書き続けることによってこれに応えたと言える。
カードの物語は彼自身の倫理観、宗教観が色濃く反映されていると言われる。その一方で身体損壊の残酷なシーンもしばしば現れる。ときに「不幸な人生や陰惨な状況に囚われた人々を眺めるのがじつは好きなのではないか」とさえ言われるほど、登場人物は過酷な状況に追い込まれる。これらのことからカードを毛嫌いする人も少なくない。しかし、「カードは嫌い」「まちがっている」という人はいても「カードは下手」という人は誰一人いない。極限的な状況を止揚し一転して感動の結末へと運んでいく、そのストーリーテリングの巧みさはSF界随一と言っても過言ではない。「小説志望者はカードを読め」(高橋源一郎)という評も有るほどである。
<参考資料>
SFマガジン編集部「作家の肖像・カード&ヴァーリィ」,SFマガジン94年 9月号
小川隆・山岸真「80年代SFの流れ(その一)」(「80年代SF傑作選」上巻,ハヤカワ文庫,1992の解説)
早川書房編集部「SFハンドブック」,ハヤカワ文庫,1990