「聖エイミーの物語」


 のっけからマイナス評価でなんだが、期待していたほどには入れ込めなかった。久しぶりのカード短編ということで期待しすぎた、ということもある。だがそれ以上に主人公エロイーズにいまいち共感できなかったのが大きい。
 エロイーズは道を誤った文明をすべて「修正」…消し去ってしまおうという「天使」のリーダーである。…失敗したからリセットしてやり直そうなんてパソコンゲームでもあるまいし、と最初に思ってしまうともうダメである。エロイーズの夫チャーリーは失敗した教訓を後世に伝えるため文明の産物の幾分かを遺そうとする。彼に全面賛成するのは、ごく普通の反応だろう。
 しかしエロイーズの考え方の当否より、カードがやりたかったのは「バベルの塔」の再話なのだろう。チャーリーが遺そうとした「バベルのかけら」もエロイーズによって「修正」される…チャーリー自身とともに。残ったのはエロイーズと、そして娘エイミーに託された物語だけ。新しい聖書の誕生秘話、とも言える。最後に物語だけが残る、というのが非常にカードらしい。
 それと、入れ込めないとは言ってみたものの、その語り口はやっぱり巧い。エイミーが幼いときの自分の視点、感覚から父親を語るときの描写などは、とくに印象的だ。

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