「王女様と熊」


 新訳だが初出は1980年とのこと。読み聞かせふうの語り口は「磁器のサラマンダー」(「無伴奏ソナタ」に収録)を思わせる。
 基本はおとぎ話なのだが、登場人物の心の動きはやはりこの人ならでは。さまざまなあり方の「愛」が表れる寓話でもある。王女の若い頃の盲目的な愛とその後の苦く悲しい愛、エドワード王のいびつになってしまった愛、<熊>の語らぬとも巌のような愛…(愛愛と連呼するのはなんかいごこちが悪いな)。
 王女や<熊>より、妻にも民にも残酷な仕打ちを繰り返す「かつての美しい王子」エドワード王の描写にどうしても注目してしまう。きちんと説明がされすぎていてかえって本当らしさが薄れてしまうきらいはあるが、ドメスティック・バイオレンスの心理をうまく物語にしている。
 久々にカードらしい話を読めて、ちょっと満足。
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