「神の熱い眠り」でジェイスンがレアドの夢に垣間見せるエピソードが、さらに克明に描かれる。本来「神の〜」の前に書かれたものなので「ワーシング年代記」の原型と言うべきものだが、刊行が後になったのでむしろ外伝的な印象が強い。
第1部で中心人物となるアブナー・ドゥーンは、ヒンドゥー神話のシヴァ神を連想させる。シヴァは破壊神だが、同時に創造神としての神格ももつ。停滞したソメック社会を破壊し、人類を宇宙へと導く彼にはこの恐ろしさと気高さを兼ね備えた神が似つかわしい。とくに第4話「ゲームをこわす」、シミュレーション上の千年王国を破壊するドゥーンの言動は彼のシヴァ的性格がよく顕れている。
第2部はジェイスンの超常能力を受け継いだワーシングの子孫の物語。伝承めいた「鋳かけ屋ジョン」や「怒れるイライジャ」の話など。これも「神の〜」でも語られていて、そちらの方が巧く語られているようにも感じられたのだが。
冒頭の言葉は第1部1話(このエピソードは「神の〜」には出てこない)「水切り石のように」より、キャピトルの建設者バーゲンに対し、友人の芸術家ダルが贈った言葉。かりそめの不死を拒んだ彼の誇らかな宣言である。