実のところ、これだけ読んでもしょうがない。この短編はアルヴィン・メイカー・シリーズ、すなわちまだ邦訳されていないシリーズのプロローグ部分なのである。「アビス」の解説にアルヴィン・メイカーシリーズが近刊と書いてあったが、どうもお流れになったようである。残念だ。超能力を持つ少女、ペギーが見たアルヴィンの未来がどんなものだったのか、知るには原書を読むしかない。そして私にはそんな英語力も根気もない。
冒頭でそのペギーが、毎日卵を取りにくる人間を憎悪するニワトリの心を読みとって、怖くて日課である卵とりができないというエピソードがある。これはほほえましい話で素直に受け入れられると思う。しかしラストでそのニワトリはめでたくチキン・スープとなってしまい、それを知ったペギーはおじいちゃんに抱きついて大喜びするのである。日本の童話作家だったらこのラストのエピソードはいれないか、それともスープになったニワトリをペギーがかわいそうに思う、ということにするだろう。家畜に対する日米の考え方の相違というものだろうか。
なお採用したのはラストの一文。このシリーズが邦訳されることを願ってのエールでもある。エンダーものと「帰郷を待つ星」のあとで是非お願いしたい。くりかえす、あとで、である。どのシリーズも中途半端というのは勘弁して欲しい。
…嬉しいことに、お流れにはならなかったようである。エンダーも「帰郷を〜」もまだ中途のままだが、出版社も違うことだし。これで活性化してどのシリーズも邦訳刊行が進んでくれれば言うことなしである。
(1998.12追加)
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