「消えた少年たち」


 帯にでっかく「ダニエル・キイス氏推薦!」。解説はモルモン教徒のよしみで斉藤由貴。うーん、「売り」にいっているなあ。しかし、最初に読むカードとしてはちょっと歯ごたえがありすぎる感も。主人公一家の生活についての描写が内容の多くを占めているので、サスペンスやホラーを期待するとちょっとじれったいかも知れない。また、描かれる親子関係や夫婦関係が、日本のそれとはかなりスタンスが異なるので、戸惑う部分もある。カード作品の主要テーマが「家族」であることを念頭に置いて、ページを繰るのをいそがずに感情移入していくといい。その点では退屈になりがちなテーマでここまで「読ませる」作品を書けるカードの筆力に、毎度のことながら感心する。とくに登場人物の造形や人間関係の描写の巧みさが目を引く。舞台にSF・ファンタジーのきらびやかさがないぶん余計に引き立っている。いい人はいい人として、イヤなヤツはイヤなヤツとして、(異常者は異常者として)、とにかくリアルなのである。いい加減に書かれた人物が見あたらない。
 ホラー的なシーンとしては主人公の家がコオロギやコガネムシの大群であふれかえる、というのがある。しかし他のシーンでの登場人物のやりとりがそれ以上にスリリングだった。もっとも結果として昆虫のシーンが今一つ印象に残りにくいという難もある。
 先に短編を読んで結末を知っていたせいかも知れないが、全体の長さに比べてクライマックスへの入り方がやや唐突な気がする。ちょっと話が長すぎたんじゃないだろうか。
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