元ネタといわれる「モルモン経」を最初の方だけだが、ざっと見てみた。確かに話の流れはかなり似ている。「モルモン経」で最初に預言を託されるリーハイは「帰郷を待つ星」のヴォーリャマーク、彼が脱出するエルサレムはバシリカというわけだ。主人公の名前などは「ニーファイ」「ニャーファイ」と、そのまんまである。
しかし、形は似せてあっても中身は違う。「モルモン経」はなんだかんだいっても聖書である以上、人間よりも彼らを支配し導く神の物語である。人間は絶対的存在に善導される(時には、翻弄される)立場でしかない。
「帰郷を待つ星」はカード作品が全てそうであるように、人間たちを描いた物語である。彼らは神=オーヴァーソウルに従って行動するかも知れないが、それは彼ら自身のの意志によってである。主人公ニャーファイも繰り返しオーヴァーソウルに訴える。従うのは望むところだ、しかし決して操られはしない、と。
その意味で私が一番好きなのが、中盤の一シーン。人類が滅亡の道をたどらないよう、大量破壊や最終戦争につながる知識や発見を人々の記憶から消し去るというのが、惑星管理コンピュータ<オーヴァーソウル>の役割である。しかしニャーファイとその兄イスィブはオーヴァーソウルの記憶操作に対抗し何とか記憶を保ち続けようとする。二人が記憶を無くさないよう続ける会話のやりとりが、息の詰まるぐらい緊張感があって印象強い。
ちなみに紹介のセリフはラストシーン、オーヴァーソウルがニャーファイら一家に自らの目的を明かすところから。それほどインパクトのある場面ではないが、シリーズ全体の大筋があらわれているので採用。