第1巻はアルヴィンが家族のもとを離れるところで終わっているのだが、すぐさまその続きを語るのではなく、タクムソーとローラ・ウォシキーという、二人のインディアンから物語ははじまる。「赤い予言者」に限って言えば、アルヴィンよりむしろ彼らが主人公である。
第1巻で印象に残るシーンのひとつに、アルヴィンが自分のもつ「奇跡」の能力を決して自分のために用いない、と誓う一夜があった。ここでアルヴィンが出会った「シャイニング・マン」が、実は…というのがこの巻の読みどころその一である。アルヴィンの出発点となった一夜が「シャイニング・マン」の視点から再び語られているのが面白い。そして、この出会いはアルヴィンの出発点となると同時に、「シャイニング・マン」…赤い予言者テンスクワタワの出発点ともなる。
第1巻でも架空のアメリカ史が物語の背景にあったが、今巻ではそれがより前面に出てきている。歴史上の人物が少しずつ立場を違えて物語に登場するところも、第1巻より目立っている。とくにタクムソーの関係は私たちの歴史と重なるところが多い。
タクムソー…テクムシ、ティカムシと表記されることが多い…は実在したショーニー族長。19世紀初頭にインディアン勢力を糾合してウィリアム・ハリソン将軍らと激しい戦いを繰り広げた。が、1811年、彼の留守中に起こったティピカヌーの戦いでインディアン側が惨敗した後は大規模な抵抗を行えず、1813年戦死。ほとんどそのまま「赤い予言者」にとりこまれている。
テンスクワタワの方は創作かと思ったが、彼もまた実在したテクムシの弟であるらしい。予言者と呼ばれていたことも同じ。ただ果たした役割はかなり違っていて、史実のティピカヌー戦は、米軍の圧迫に耐えかねたテンスクワタワが兄の命令に背いて先制攻撃したことからはじまったということである。
彼ら兄弟の正面の敵だった合衆国将軍ウィリアム・ハリソンは後に第9代大統領になる。どうやらこちらのハリソンにはテンスクワタワの呪いはなかったらしい。
アルヴィンの世界に戻って、タクムソーを背後から利用しようと謀るフランスの面々もなじみのある人物が登場する。カナダ総督には革命貴族ラ・ファイエット、そして彼のもとに将軍として派遣されるのが、なんとナポレオンである。ナポレオンが人心掌握に魅了(チャーム)の魔術を使っている、という設定には笑ってしまった。
ほかにもアンドルー・ジャクソン…7代大統領が出てくるし、アルヴィンの兄メジャーを惨殺するマイク・フィンクもアメリカン・ヒーローの系譜に連なる人物である。物語に登場するフィンクは残虐ながら、彼なりの原則をもった人物として描かれている。この巻だけのチョイ役にはおさまりそうにもないが、さて…?
ティピカヌーの戦いは歴史上でもテクムシらの命運を決したが、物語でも同じ名を冠した戦い…いや、虐殺が最大の山場となる。加害者の白人たちはテンスクワタワの呪いにより、自らの蛮行を一生語り続ける責務を負うことになる。そしてアルヴィンはタクムソーとともにインディアンの諸部族を巡り、同胞が行ったことを語って歩く。このあたりは「エンダーのゲーム」の、自分が手を下した異類殺し(ゼノサイド)の後「死者の代弁者」となったエンダーとイメージが重なる。カードの世界では常に「物語ること」こそが最大の力となるようだ。
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