「神の熱い眠り」(ワーシング年代記)


 カード自らが「自分の最高作」と称する作品。確かに最高にいい作品ではないにしても最高に手をかけた作品ではある。最初に原型となるアイディアを思いついたのは「エンダーのゲーム」よりはるか前、彼が19歳のときだという。その後何度かのリライトを経て、この長編に至るまでにおよそ二十年かかっている。
 カードの作品のルーツとも言えるこの物語には他の作品に登場するキャラクターの原型が数多くみられる。語り手となるレアドは「帰郷を待つ星」のニャーファイらカード作品の少年主人公と似ているし、ジェイスン・ワーシングの優しさと残酷さは「死者の代弁者」エンダーを思わせる(しかし他人の不倫を暴きたがるとこまで似てなくてもよさそうなものだが)。
 キャラクターがカード印の典型である一方で、最近作でとみに顕著な宗教臭は薄い。それでも説教臭さは残るがそこはカードの持ち味ということでよしとしよう。つまり抵抗なく物語に入り込めるうえにカードの特色は損なわれていないという、非常に得な作品である。最初に読むカードとしては「エンダー」「ソングマスター」につぐもう一つ の選択肢だろう。
 恒例、紹介の一節はジェイスン・ワーシングのセリフから。この作品のテーマを簡潔に表すという点で、我ながらうまい選択だと自賛している次第である。「苦痛ゆえにこそ人は偉大である」考えてみれば月並みな言葉だが、カードの筆はそれを珠玉の名品に変える。

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