「地球の呼び声」(帰郷を待つ星・2)


 前巻「地球の記憶」と合わせて「帰郷を待つ星」シリーズの第1部、といったところか。「地球の記憶」では名前だけで人となりの分からなかったセヴェットやキョーコール、<解明者>ヒューシースらのキャラクターに肉付けがされ、役者のでそろった感がある。
 だが今回の登場人物中最も魅力的に仕上がっているのは、おそらくこの巻だけにしか登場しない将軍ムウズー(本名ヴォズムザールノイ・ヴォズモズノ…舌噛むぞ)である。神=オーヴァーソウルの強制力を感じたとき、常に反発して強制とは逆の行動をとり続けてきた人物。オーヴァーソウルの聖地バシリカの征服という彼にとって最大の勝利のあと、しかし彼が知ったのは自分の行動が全てオーヴァーソウルの意図した通りだということだった。オーヴァーソウルはムウズーの反発を見越して、自分の意図とは逆のことを彼に強制することで彼をコントロールしていたのである。最大の勝利と最大の敗北を同時に得るという皮肉。このエピソード単独でもひとつの悲劇として充分鑑賞に堪える。しかし…このオーヴァーソウルのやり口はたとえ善い目的のためだったとしても、姑息で狡猾と思わざるをえない。私はこんな神様を信じるのは願い下げである。

 その悲劇の英雄ムウズーを後に残してニャーファイら一行は砂漠へ、そしてまだ見ぬ地球への旅路に着く。ニャーファイと彼に敵意を抱く長男エルイェマークとの関係はどう動くのか、オーヴァーソウルでさえ予測しなかった謎の幻夢はどこから送られたヴィジョンなのか、そしてその意味は?そして地球で何が彼らを待っているのだろうか……。というふうに物語はこれからが本番なのだが、いかんせん続きが出ない。原書はシリーズ完結しているはずだから、まさか翻訳を途中で打ち切りはしないだろう……と切に願っているのである。

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