SF名文句・迷文句第206集

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「ペテルブルクに行きたいかー?!」「おー!」
「どんなことをしてでもペテルブルクに行きたいかー?!」「おー!」
「KGBは怖くないかー?!」「おー!」

 出典: 高野史緒「赤い星」

紹介 :TWR 様
HP :

コメント:
 なぜだか幕藩体制を保ったまま、20世紀をむかえた日本は二次大戦後のどさくさに紛れて(やっぱり負けている)、帝政ロシアの属領となっていた。極東の辺境に皇帝の実質的な権力が及ぶことはなく、ロシア・マフィアの跋扈する魔界と化していた。やがて21世紀を迎えた日本は、江戸風情と最先端の情報技術が混ざり合う奇妙な国となっていた。属領民である日本人に海外旅行の自由など有るわけもないが、一般人にも海外旅行の機会が与えられるとして人気のテレビ番組が、その名も「シベリア横断ウルトラクイズ」!
 数々の架空の歴史を紡いできた作者の矛先が向いたのが日本。この番組は作中で重要な道具立てとして使われます。あくまでも大まじめなこの作者の、世界の構築にかける思いは本物なのですが(本家アメリカ横断〜のスタッフに取材を行う)、ちょっと受け止めきれない感じです。

駄弁者:
 21世紀というよりは、まんま江戸時代のつもりで読んでしまいました。まあその割にはツァーリ交代のネット中継やヴァーチャル・エカテリーナ宮廷が登場したりもするんですが…。マジメなのかギャグなのか、ちょっと分からない話だったように思います。



コピー? 素晴らしい褒め言葉だね。大量生産出来るということだよ、それは。
思い知るといい。我々はそのコピーから新しいものを作る民族だ。大陸? 欧米? 2nd―G? どの文明も文化も私達にとっては最先端ファッションだよ。何しろ盗作も手を入れれば模倣となって新時代の到来だ。さようなら古いコピー元。こんにちは我々の流行。悔しかったら文化と文明に著作権保護を掛けたまえ。―――それすら我々は突破するがね。

 出典: 川上稔「AHEADシリーズ 終わりのクロニクル2下」

紹介 :検索の渡り鳥 様
HP :

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 全竜交渉を推し進めたい主人公たちに対して、現状維持を望む2nd―G側の思惑がぶつかり合った。現状維持を認めぬ場合、2nd―G側は以後の技術協力を拒否し、敵対組織への身売りを示唆してきた。2nd―G出身者にして日本UCATの開発部長・月読、史弦との事前交渉でのやりとりに対する主人公佐山の回答“代わりを雇えばそれでいい”というセリフの後に続くのがコレ。にしても佐山の日本文化についての見解もずいぶんととんでもない極論だよなぁ…。屁理屈キャラに日本文化を語らせるとこういう形になるのかといういい見本。

駄弁者:
 コピーしてアレンジ、の雑種文化が身上ですから。
 もっともコピーが糾弾されるのは、最近では日本じゃなくてお隣のことが多いですが…。そこから新しいものをつくれるかどうかが、問題ですかね。



計算によると13州の家庭のわずか数%が減速機を取り付けただけで、地球は時空連続体からはずれてしまうそうです。

 出典: フィリップ・キュルヴァル「愛しき人類」(蒲田耕二訳)

紹介 :TWR 様
HP :

コメント:
 ある日突然鎖国を実施し、何者も(情報さえも)国境を越えることが出来なくなったマルコム(旧ヨーロッパ共同体)。鎖国から20年、ガラス瓶に託されたマルコムからのメッセージを受け取ったペイヴォイド(旧発展途上国連盟)のスパイは、危険な潜入を試みる。
 マルコムでは、時間流減速機を設置して時間を引き延ばし、1日を長く味わうことがステータスシンボルとされていた。しかし、それには2つの環境問題が危惧されていた。
 1つは、減速機に使われる莫大なエネルギーを支えるための原発から生み出される核廃棄物。そしてもう1つが、時空のゆがみであった。
 個々の減速機が生み出すゆがみは小さな物でも、つもりつもれば地球をも破滅させかねない。いわゆるバタフライ効果なんですが、こういう大きな風呂敷は大好きです。

駄弁者:
 見ない名前だと思ったら、フランスSFなんですね。同じサンリオSF文庫でミシェル・ジュリの作品は1冊読んだことがありますが、こちらは知りませんでした。アポロ賞受賞というから、高い評価を受けた作品だったんでしょうが…。
 他サイトで紹介されているあらすじからすると、ちょっと「1984年」のアップデート版みたいなところがある?



間に合わせるのがオトナってものよ

 出典: 今石洋之監督・中島かずき脚本「天元突破グレンラガン」

紹介 :人外魔境地底獣国 様
HP :

コメント:
 大グレン団のもう一人の解説者、メカニック担当のリーロンの言葉。
 刻一刻と変化する状況に対応し、無茶な要求に文句を言いつつも応えてみせる、
これぞプロ!アンタ漢だよ!(おネエキャラですが)と言いたくなる仕事ぶりです。

駄弁者:
 「納期」なんて、耳にしたくない言葉ベストにランクインするんじゃないかと思いますが、そこを敢えて名文句のように言ってみせるのはカッコいいです(…あとで泣きを見るとしても)。
 ちなみにオトナがもっと老獪になると、どこぞの洋モノSFシリーズのエンジニアみたいに、あらかじめ間に合うよう期間を水増ししたりするのですが…。



この作戦の成功率は0%だった。だがお前たちには机上の計算は無駄なようだな。

 出典: 今石洋之監督・中島かずき脚本「天元突破グレンラガン 第25話『お前の遺志は受け取った!』

紹介 :人外魔境地底獣国 様
HP :

コメント:
 4月25日の劇場版第2部公開に向け、「グレン」ネタをいくつか投稿していこうと思っております。最初は大グレン団の生体コンピューター兼解説者、ロージェノムの台詞から。
 人類を殲滅しようとする謎の敵、アンチスパイラルの本拠地である隔絶宇宙に突入した大グレン団の旗艦、超銀河ダイグレン。しかし敵の罠によって超高密度の宇宙の海(文字通り液状の宇宙)に落とされ、圧壊の危機に陥ってしまいます。状況を打破すべくリーダーのシモンは捨て身の作戦を立案、これに対し遂行は無理と判断したロージェノムが警告を発しようとしますが「無茶は承知の上」と遮られてしまいました。
 で、大きな犠牲を払いながら辛くも作戦は成功し、上記の台詞と相成ります。まあ、「無理を通して道理を蹴倒す」のが大グレン団ですから、成功率がゼロだろうがマイナスだろうが知ったこっちゃねえといったところでしょうか。
 ちなみに最終回でアンチスパイラルも「お前たちが勝つ可能性はゼロだ!」と言い放ちますが…

駄弁者:
 何とか第2部公開には間に合いました。
>この作戦の成功率は0%だった。
 成功率をものともしない勇気をたたえるべきなんでしょうが。
ついひねくれて「だから「0%」とか「100%」などとうかつに口にしちゃいけないんだなあ」と思ってしまいます。



かつてメートル単位で計られていた物体が、革新的な技術によってすべて、裸眼では見えないほど小さくなった。諸君、女性たちの言葉は忘れるがよい。「サイズなんて問題じゃない」というのはまやかしだ。
サイズは、重要だ。
──最高経営責任者 ナワダイク・モーガン,モーガン産業 年次報告

 出典: シド・マイヤー制作「アルファ・ケンタウリ」

紹介 :のりすけ 様
HP :

コメント:
 10年も前にリリースされたPCゲーム、アルファ・ケンタウリ が出典です。
 ゲーム中では技術開発の進行に従い、デモメッセージが再生されますが、どれも非常に秀逸かつ味わい深いものばかりです。
 翻訳・吹き替えが最高の出来栄えなので、ぜひともプレイして頂きたいゲームのひとつです。
 ちなみにこの言葉はゲーム中でナノテクノロジーを開発した際のデモメッセージです。

 やっぱりサイズは重要ですか、、、

駄弁者:
 前にもこのゲームからご投稿をいただいたことがありますが、やはりナワダイ ク・モーガン語録からでした。
>「サイズなんて問題じゃない」というのはまやかしだ。
 ナノテクではサイズは小さければ小さいほどいいんでしょうが、女性たちの言葉で問題にされているサイズは、大きいことが重要なのでは…(笑)。



彼女は<ジェンシン>社製だ。製品だった。

 出典: デイヴィッド・ウィングローヴ「龍の帝国 (チョンクオ風雲録1)」( 野村芳夫訳)

紹介 :TWR 様
HP :

コメント:
 21世紀中葉の経済的混乱の後、漢民族が覇権を握った世界。彼らによる安定を停滞と感じた人々が世界を揺るがし始める。
 ある日、会議中の楊次席大臣へのメッセージを携えた書記官は、メイドに待合室に案内される。雪のような肌、美しい漆黒の髪、更に纏足と、中華風の美の体現と言える彼女の首筋には、製造元の刻印があった。
 冒頭からメイドロボの登場です。どうやら洋の東西を問わず、SF者は萌えキャラに弱いようですね。さらに「メイドがなんなりとお相手いたします」と言われた彼は、監視を疑いつつも、彼女相手にことを致そうとする。ここに至ってオタクの妄想大爆発。全くやってくれるぜ。

駄弁者:
 なんなりと…と言われてそっちの「用途」に走ってしまうのも、洋の東西を問わず?
 纏足が萌え要素になっているあたりは、この世界観ならではなんでしょうけどね。



駐日”異文明ふれあい大使”のシュメール星人は
乾ききった現代文明の軋轢を耐え忍び
生きてゆかねばならないのだ
もがけシュメール星人
むくわれろシュメール星人
  あと一年住め

 出典: ツナミノユウ「シュメール星人」

紹介 :屋良一 様
HP :

コメント:
 月刊漫画誌「ウルトラジャンプ」連載中の漫画より。
 西暦2002年 異星人の宇宙船が地球にやってきた 地球は有史以来の興奮と驚きに包まれた しかし…その宇宙船はぶっちゃけもう動かない、気密を保つのがやっとの難破船で、乗ってきた宇宙人の技術水準は地球人から見て20年は遅れていた。(携帯電話を見て驚くほどに)
 つまりかれらは故郷を失ったボートピープルだったのだ!
 たちまちかれらシュメール星人は忘れられ、ただの居候として米国内で4年飼殺しにされた揚句、何の気まぐれか受け入れを表明した日本国政府により、一人のシュメール星人が「異文明ふれあい大使」としてまねかれ、日本の砕玉県砕玉市(日本で十番目に人口の多い大都市)のアパートに、妻子(生まれたばかり)と別れて単身赴任で2年間暮らすことになった。
 この作品はそのシュメール星人の日常の記録である。

駄弁者:
 「文明ふれあい大使」というのが、いかにも行政がつけそうなネーミングセンスで苦笑い。「ふれあい○○」とつけられた公共施設・インフラは全国で1800あまりもあるそうです(パオロ・マッツァリーノ『反社会学講座』より)。
 「UFOふれあい会館」というのもあるので、もし不況や財政難で砕玉市からの大使委嘱が打ち切られたら、シュメール星人はそちらに行くといいかも…。



明後日……そんな先のことはわからない

 出典: 高橋良輔総監督「装甲騎兵ボトムズ 第9話「救出」次回予告」

紹介 :てつぶし 様
HP :

コメント:
 すでに何本か投稿されている、装甲騎兵ボトムズの次回予告より。
 ちなみに、同じ9話の次回予告の別のフレーズが第100集に載っていますが、僕はこっちのフレーズの方が印象に残っています。
 なお、昨日から明日までがどうなっているかというと……。
昨日夜、全てを無くして酸の雨に濡れていた。
今日の昼、命を的に、夢買う銭を追っていた。
明日の朝、ちゃちな信義とちっぽけな良心が瓦礫の街に金をまく。
 ときて、明後日をそんな先のことと言い切るあたりは、
荒廃した世界の中にある絶望と野心と人情を織り交ぜた名文句(名予告?)だと思います。

駄弁者:
 100集の名文句とコメントの「昨日から明日まで」と、合わせて一つの名文句としてもいいかも知れませんね。
 「そんな先のことはわからない」とはレイモンド・チャンドラーから引っ張ってきたのかな、とも思いましたが、元ネタとは関係なしでもいいフレーズです。



右ききの人間は左手で持たないもんだ

 出典: アンドリュー・ニコル監督「ガタカ/GATTACA」

紹介 :TEAM NORTH-MOAI(R) 様
HP :

コメント:
 えー?人それぞれだと思いますケド。
そんな事はさておき
 DNAで人生の優劣が決まってしまういやーな未来。宇宙飛行士を志望する遺伝子不操作の彼はDNAチェックをごまかす為の涙ぐましい努力でなんとか木星行きのメンバーに選ばれました。
 ロケットに乗る寸前、DNAチェックがありました。対策をしていなかった為、バレると覚悟を決めた彼に、検査医師は個人的な理由から彼を見逃してくれたのです。
 そう、検査医師は気づいていたのです。偽装は完璧でした。ある事を除いて。
 何を持つかは映画を見た時のお楽しみとして、「いつバレるか」という緊張感はなんかクセになりそうです。

駄弁者:
 私もまだ見てないので(いい映画だとは聞いているのですが)、楽しみにとっておきます。
 タイトルの「GATTACA」ってどういう意味かと思っていたんですが、DNAの塩基配列だったんですね。



お前の存在そのものが、私の人生の…否定だ

 出典: コナミ製作「Z.O.E」

紹介 :陸ドム 様
HP :

コメント:
 ライバルキャラが死ぬ前の会話から。
 自分は実力で戦場を生き残ってきた、運なんかじゃない。
 それをたまたま最新兵器に乗った子供に、才能があったなんて理由で倒されたんじゃやってられないというものでしょう。
 大抵のロボット物のライバルはみんなこう思ってんじゃないでしょうか?

駄弁者:
>大抵のロボット物のライバルはみんなこう思ってんじゃないでしょうか?
 たしかに。兵器の性能の差というなら百歩ゆずって諦めがつくのかもしれませんが、自閉症児や不良少年の才能とか運に負けたとあっては、ベテランとしては死んでも死にきれないというところで しょうね。



ご希望であれば17の異なる明瞭な理由を述べられますが

 出典: コナミ製作「Z.O.E」

紹介 :陸ドム 様
HP :

コメント:
 子供が主人公のロボット物によくある展開。  機体を破壊してもパイロットを殺さないというアレに対して、AIが殺せと促す台詞です。
 何で行動不能の敵に止めを刺さなくちゃいけないのかと言う主人公に冷徹に返答するAI。
 昨今人間臭いメカが主流のような気がしますが、これくらいの方が個人的には好きですね。

駄弁者:
 それでも乗り手が殺さないことを選んだら、その線にそって最善の計算をはじき出すのがAI気質というものです。  しかしまあ、私も変に人間味のあるAIよりは、機械的なほうがキャラクターとして面白いと思いますね。



「テレパシー……」と後ろのほうで誰かが言った。
「それは問題にならない」とヤゾンが素っ気なく応じた。

 出典: スタニスワフ・レム「砂漠の惑星」(飯田規和訳)

紹介 :TWR 様
HP :

コメント:
 こと座星域レギスVで消息を絶った宇宙船「コンドル」の捜索に向かった「無敵」のクルーは、謎の黒い羽虫状の機械の襲撃を受ける。羽虫との指令に電磁波が使われている形跡はない。いかなる手段で指令が送られているか推測するうちに提出されたテレパシーという意見を、核物理学者ヤゾンは一言で切って捨てる。
 既知宇宙では発見されていないから、という理由があるので、いわゆるオッカムのかみそりを適用したのかも知れません。しかしビーグル号をはじめとして超能力の登場するSFは珍しくないのですが、この作品では検討することも無しに否定しています。レムの超能力という物に対する姿勢が良く現れていると思います。

駄弁者:
 超能力を問題にしてしまうと、それでなんでも説明できてしまうから否定することにしているんじゃないでしょうか。それでムリヤリ理由付けしてしまうよりは、ソラリスの海の存在ようにあえて説明できないままにすることを、レムは選ぶんじゃないかと思います。



「このメルカトルが云うのだから間違いはない」

 出典: 麻耶雄嵩「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」  『メルカトルと美袋のための殺人』に収録

紹介 :んどらもえ 様
HP :

コメント:
 メルカトル鮎(めるかとる・あゆ):銘探偵。自称「漂泊の天才探偵」「長編には向かない探偵」。美袋曰く「傲慢で専横な異端児」。銘探偵の「銘」は銘菓の「銘」のようなもので、最後にきちんと謎を解くという安心感を読者に与える商標登録のようなもの。美袋くんの親友。
 美袋三条(みなぎ・さんじょう):推理作家。小説の中でメルを「糞っ、むかつくよな、あいつ。いい加減にしろよ、まったく。自分を何様だと思ってるんだ。ロシア人みたいな顔しくさって」と罵るほどの親友。
 本書『銘探偵とワトソン役のための殺人』は、麻耶雄嵩先生のデビュー作『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』で華麗なる死を遂げたメルカトル鮎と、彼の親友である美袋三条が紡ぎだす、めくるめく友情と奇蹟の金色百鬼夜行であります。  麻耶先生は本格推理作家ですし、その作品もすべてが本格ミステリですが、本作「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」は、SFとも認識できる作品ではないかなと思い、投稿しました。
 ……友人の別荘に泊まりにきていた美袋三条は、転寝から目を覚ましたときから、佑美子がそれまでとまったく違って見えるようになった。彼女から受ける印象が、180度変わったのだ。佑美子に特別な感情を抱くようになり、彼女を意識せずにはいられない美袋。だが後日、彼は悪夢としか云いようのないものを見た! 佑美子が死んだ、この難攻不落の不可能犯罪に挑む銘探偵。遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえたとき、白日のもとにさらされる仮想パズルの世界とは……。
 多くのミステリは、謎を解く(=真実を明るみにする)ことで爽快感を生み出します。しかし、麻耶作品の場合は、謎を解くことは破壊への道標です。『夏と冬の奏鳴曲(ソナタ)』『鴉』『神様ゲーム』あたりが特に顕著ですが、これら三長編に「瑠璃鳥」を合わせた四作品が、個人的な四大破壊ミステリとなります。
 メルカトルの口から語られる真実を信じることができない美袋。彼は己の大切なものを守るため必死に抵抗しますが、メルカトルの呪縛から逃れることができずに、ついには崩れ落ちてしまいます。そしてぽつりと漏れる「……本当にそうなのか」の声。それを受けてメルカトルが放った絶対なる言葉。
 メルカトルが白と云えば鴉も白に染まり、黒と云えば無実だった人も犯人となりうる……しかもそれは冤罪にすらならない。彼が言う「真実」に間違いはないのです。「えっ、『翼ある闇』はどうした?」という声が聞こえてきそうですが、あれはきっと銘探偵の茶目っ気だからいいんです(笑)。
「本当にそうなのか?」
「このマヤカルトが云うのだから間違いはない」(……これがやりたかっただけだったりして)

駄弁者:
>メルカトル鮎最後の事件
 名(銘でもいいか)探偵の「最後の事件」が最後にならないのは、19世紀からの伝統ですか。



「たぶんわれわれは生きつづけられるだろう」彼は感情のない笑いかたをした。「なにしろ、おたく流のいいかたをすれば、われわれは<主要登場人物>だからな……」

 出典: ダニエル・F・ガロイ「今宵、空は落ち…」(山田忠訳)  『SFマガジン』1985年4月号・5月号に収録

紹介 :んどらもえ 様
HP :

コメント:
 「ぼくは尾行されている」――タール・ブレンドは、自分が何者かから絶えず監視されていることを確信した。無一文から一転、見ず知らずの親戚から相続した大金をもとに始めた事業がとんとん拍子に成功。街で出会う女はどれも絢爛豪華な美女。かつての恋人マーセラとばったり再会。事故に巻き込まれれば、周囲の人間が身をていして守ってくれる。……あまりにもうまくいきすぎる。
 タールの不安はあたっていた。世界の真実を知った巨大な組織が、彼を保護していたのだ。その目的は、タールの身を守ること、そして彼を真実から遠ざけることであった。
 <この世界の真相>――じつは、この世界は存在しなかった! 超知性体が潜在意識下で睡眠状態にあるときの思考パターン――すなわち、夢だったのだ! そして超知性体の潜在意識はタールの中に存在していた。タールが死ぬか超知性体が目覚めるかで、この世界は消滅してしまう。
 夢の終わりは確実に近づいていた。光の速度がこれまで考えられたものよりもはるかに遅いことが発覚した。水星が消滅した。三平方の定理が成り立たなくなった。星の配置がばらばらになり、雲のない空に稲妻が走る。世界が消えていく……。
 夢から醒めると世界が滅亡するというアイデアや、一気呵成に突き進む展開、不気味な終焉へのカタストロフィが秀逸な、1952年作の中編です(なお、『SFマガジン』での著者名は「ギャルイ」ですが、一般的には「ガロイ」みたいなので、投稿の著者名はガロイの方を採用しました)。個人的なこのアイデアの初体験は、ゲームボーイソフト『ゼルダの伝説 夢をみる島』(1993年)でしたが、真相に直面したとき驚愕したことを覚えています。よくこんなアイデアを思いつくなと脱帽しました。
 投稿の台詞は、タール(に宿る潜在意識)を乗っ取ろうとする精神科医メンデルのものです。そしてこのあとメンデルは、物語のクライマックスにふさわしい散り方をします……。良くも悪くも、主要登場人物はなにかと大変です。

駄弁者:
 山本弘『トンデモ本?違う、SFだ!』でも紹介されていた作品ですね。
>「たぶんわれわれは生きつづけられるだろう」
 主要登場人物の役割は生きるだけじゃなく、見せ場で死ぬというのもありまして…。



さて私とライオンと矢が今この瞬間t0にいる状況は、時が一回往復するたびに二度、そして宇宙がその拡大作用と収縮作用を過去において…(中略)…繰り返されたのと同じ回数だけ何度も繰り返されたたびごとに、まったく同じように現れるとしても、現在の瞬間に先行したt-1、t-2、t-3の各瞬間においても次に来る状況が不確かだったように、やはりt0の次に来る瞬間t1,t2,t3における状況は不確かでしかないのである。

 出典: イタロ・カルヴィーノ「ティ・ゼロ」(脇功訳)  『柔らかい月』に収録

紹介 :TWR 様
HP :

コメント:
 襲いかかるライオンに向けて射手が放った必殺の一撃。矢が放たれた後から始まり、命中するまでのわずか数秒のうちに展開される物語。その数秒を、ゼノンもびっくりな無限に分割された時間の中で、射手は、矢とライオンの無数の軌跡をよみとり、ライオンとは何か(自分がライオンだと判れば良く他人とは違う概念でも構わない)について考察し、時空の彼方に思い(瞬間とは時空の重なり合い)をはせる。
 カルヴィーノは、ほら話(表題作や我らの祖先3部作)の作者として扱われることが多いようですが、この短編は思考の限界に挑戦したものと言っていいでしょう。
 とにかく読んでみてくれとしかいえない己の非才が嘆かわしいばかりです。

駄弁者:
 イタリアのSF作家…というより、イタリア現代文学の代表的作家の短編より。第1部は「レ・コスミコミケ」と同じくQfwfqのホラ話からはじまるのですが、細胞分裂について一細胞の立場(!)から語る第2部「プリシッラ」、ご投稿の第3部「ティ・ゼロ」と進むにつれ、発想の奔放さが(難解さも)増していく連作でした。
 ある一瞬(例えば襲いかかるライオンに矢を放った瞬間とか、拳銃を持った追跡者とのカーチェイスとか…)をとりあげて、それをただひたすら論理的に描写していく。物語中の経過時間に対してこれほど語数を費やしている短編があるで しょうか。読む方に課せられる集中力も相当なものでしたが…。
 文中ところどころで「要するに」「要約すると」などと出ていますが「いや、全然要してないから」と苦笑。



「わたしたちはおとなにならない、って一緒に宣言するの。
< list:item >
 < i:このからだは >
 < i:このおっぱいは >
 < i:このあそこは >
 < i:この子宮は >
< /list >
 ぜんぶわたし自身のものなんだって、世界に向けて静かにどなりつけてやるのよ」

 出典: 伊藤計劃「ハーモニー」

紹介 :垂直応力 様
HP :

コメント:
 しばらく投稿サボってたら、まさか追悼になってしまうとは…
 著者のブログを見ていなかったので、癌に侵されていたとは知りませんでした。2008年末に出た本作も病院のベッドにパソコンを持ち込んで完成させたそうですが、2009年3月20日逝去。享年34歳。
 体内を常時監視する医療分子により病気を撲滅し、健康を第一とした高度な福祉社会の真綿で締め付けられるような息苦しさに抵抗した少女達の物語。自分自身の体(病気)と戦いながら書かれたと知ってしまうと、重みや意味合いが違って見えるかもしれません。改めて読み直そうかと思います。
 あまりにも早すぎる死を悼み、故人の冥福を祈ります。

駄弁者:
 各人が人間を「社会的リソース」として健康に保つことを至上命題とし、政府ならぬ「生府」が管理する医療サーバとナノテクによってほとんどの病気が根絶された21世紀後半。互いが互いを常に気遣い、尊重する究極の無痛文明が話の舞台。そんな社会を根底から揺るがす大事件に、主人公の女性は学生時代の友人の影を見る。かつて彼女らは真綿の鎖に反抗して自殺を企て、そして友人だけがそれに成功していたのだった…。名文句についているタグはEmontion-in Text Markup Language…ETMLに基づいたもの。物語の全編がこの形で綴られています。その理由は衝撃的なラストで明かされます。
 作者のブログなどは全然見ておらず、訃報は青天の霹靂でした。「ハーモニー」を読んで非常に気に入っていた矢先だけに、ショックでした。
 死病に臨んだ立場からしてみれば、この作品の社会はユートピアとして語られても不思議はないと思います。それをあえてディストピアとして見る視点から描き、さらには人間意識の行方にまでつなげていく。病や苦痛に枉げられない思考とはあるものなんだなと、今さらながらに感嘆しています。
 ライトノベル的な感触もあるので、ラノベからちょっと範囲を拡げてみたい高校生あたりに勧めてみたら当たるんじゃないかとか、学校司書みたいなことも考えていたのですが…。



「一度は支配者になったやつのことだ、二度目だってありうるさ。きみは人間が完全無比な正義の化身だと思い込むあまり、そこに長い歴史があったのを忘れてしまっているんだ。人間は食べるためだけでなく、慰みのためにほかの動物を殺してきた。隣人を奴隷にし、対立者を殺し、他人の苦しみを見ることに、邪悪で嗜虐的な歓びを味わってきた。われわれがこれからの航海で、人類よりはるかに宇宙の支配者としてふさわしい、ほかの知的生物に出会うことも充分ありうるんだ」

 出典: A・E・ヴァン・ヴォクト「宇宙船ビーグル号の冒険」(浅倉久志訳)   『世界SF全集17』に収録

紹介 :冬寂堂 様
HP :

コメント:
 ヴォクトの代表作から投稿します。ビーグル号は恒星間調査のために科学者たちがメインとなり、長い旅に出ている宇宙船。旧来の科学が歯が立たない様々な困難に出会うとき、立ち向かえるのはビーグル号唯一の情報総合学者、エリオット・グローヴナーだけだった。投稿したセリフは、乗組員たちに卵を産みつけ、ビーグル号を乗っ取ろうとした生命体「イクストル」を撃退させた後のセリフから。確かに我々より優秀な種族がいない、と考えるよりもいる、と考える方が妥当ですものね。でも、人間に対する批評がいささか厳しすぎるような気がします。

駄弁者:
 人間を正義の化身と思い込むのは論外ですが、逆にこうまで言うのもちょっとどうかと。
 「宇宙の支配者」として人類よりふさわしい知的生物というのは、より倫理的に進化していることを想定しているんでしょうが、ひょっとしたらより邪悪で嗜虐的なほうが支配者には向いていたりして…。



わが旧友カークよ、クリンゴンの諺にこういうのがある。『復讐は冷たい皿に盛って出せ』…冷え切っているぞ、宇宙は。

 出典: ニコラス・メイヤー「スタートレック2 カーンの逆襲」

紹介 :人外魔境地底獣国 様
HP :

コメント:
 リカルド・モンタルバン追悼ということで、私のスタートレック初体験である映画2作目より。リライアントをジャックしてからエンタープライズと交戦するまでの(数日程度か?)間に憶えたのでしょうか。  元ネタは不明ですが(wikipediaにはパシュトゥン人の言葉だという説が載ってました)、「復讐にはじっくり時間をかけるのがよい」という意味のようです。

駄弁者:
 この映画が初体験となると、スポックが死んでしまうシーンの感慨がいまいちになりそうで、ちょっともったいないですね。
>リカルド・モンタルバン追悼
 亡くなったのは少し前に知ったのですが、こちらのご投稿を掲載するタイミングは逃してしまってました。STに初登場したときの話(「宇宙種」(『謎の精神寄生体』に収録)TV邦題「宇宙の帝王」)はあんまり印象が強くないのですが、映画ST2の彼は存在感がありました(SFXかと見まごうばかりの筋肉も)。



いけない!
このブラック家の人間に係わってると大変な事になる!
夢しか見てない!

 出典: 大石まさる「水惑星年代記 月娘」

紹介 :TEAM NORTH-MOAI(R) 様
HP :

コメント:
 いやぁいい!大石まさるはいい!特に「水惑星年代記 月娘」はいい!
 ………失礼も、これで打ち止めでございます。
そんな事はさておき。
 (国や企業を背負わず)「個人」で火星に来たブラック家の人が、次は太陽系外に地球型惑星を探しに行きたい、いや(離着陸が面倒なので)火星にも軌道エレベーターが欲しい、まず月に!、などという話を聞いている、モス・グリーン君の、至極真っ当な意見ですこれ。  このブラック一族、回りを巻き込むのが得意で、このモス・グリーン君も結局一族入りをしてしまいました。  ちなみにこの「月娘」で「水惑星年代記シリーズ」最終巻だそうです。

駄弁者:
 『いやぁいい!大石まさるはいい!特に(以下略)』は、今回なし…かと思ったら、通信エラーだったんですね。すみません。
>このブラック家の人間に係わってると大変な事になる!
 夢ばかり見た人間がなし遂げた成果を享受するのはいいですが、その過程を共有するのはちょっと……というのは身勝手ですが、正直なところ。



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