SF名文句・迷文句第228集

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「それはね、灯里ちゃんが素敵だからよ。…(中略)…どんなに豊かでも不幸な人はいるし、どんなに貧しくても幸せな人だっているわ。結局本人次第なのよね、幸せを決めるのって。灯里ちゃんが素敵だから、この世界がみーんな素敵なのよ」

 出典: 天野こずえ「ARIA」

紹介 :るーしー 様
HP :

コメント:
 以前にも投稿した、未来の火星・アクアを舞台にした漫画から。
 夏のある日、見知らぬ小島に招待された灯里。それは先輩・アリシアからの休暇のお誘いでした。
 1日中海を満喫した夕暮れ時、アクアの素敵さを語る灯里にアリシアが言ったのが今回の名文句です。
 某ファンタジーバトル漫画の話で恐縮ですが、文字通りのシンデレラストーリーで一切自分の力によらず得た幸福を不満に思う敵を前に、「自分の幸せは他人の顔色うかがってちゃつかめねぇよな」という場面がありました。
「幸せって何だっけ?」という質問には、「毎日の生活や様々な人との関係を楽しむ事」「自分の力で何か達成した証を残す事」「美味い醤油がある事(笑)」等様々な答えがありますが、実のところ本人がどう感じるかなのではないか……という言葉です。

駄弁者:
 しかしこの作品の火星は(ちゃんと見たり読んだりはしてないんですが)、心の持ちよう以前に結構居心地よさそうなんですよね…。住む人の気の持ちようによっては、それでも暗くて住みにくいところになってしまうのでしょうが。



所有者は所有に所有されることによってのみ所有を所有する。

 出典: 安部公房「永久運動」  『世界SF全集27』に収録

紹介 :冬寂堂 様
HP :

コメント:
 もう一つ安部公房の作品から投稿します。ある発明家がなんでもわかる人造人間を開発し、発表会を開いた。
 愚にもつかない質問ばかりの参加者から三人を選び、彼らの悩みに答えようとするのだが──。
 投稿した台詞は、発明家が人造人間に逆に使われているように見えると参加者が言った言葉に対しての人造人間の回答から。その後、物語は何とも不条理な最後を迎えます。
 この人造人間はおそらく「文明」とか「資本社会」というものの象徴で、参加者はそれに振り回される人間そのものの象徴と言えると思います。
 で、この作品を読んでいて思い出したのですが、陳舜臣先生の作品で「墨に擦られる」という言葉がありました。
 これは古墨を集める人間は、一生に使いきれないほどの墨を集めてしまう。墨を「擦る」側の人間が逆に「擦られて」しまうことを言った言葉で、この状況を的確に表している台詞かと思いました。最も、その伝でいくと、私も本に「読まれて」いるタイプの人間だと思いますが(笑)
 安部公房の作品は確かに不条理な作品が多いのですが、少し読み進むとテーマが明確にわかるので、決して読みにくくはありませんでした。そこさえつかめれば読みやすい作品ばかりなのでご一読をお勧めします。

駄弁者:
 こちらはあまり長くなかったんで読んでみました。戯曲じたてなんですね。
 登場する若者、女性、紳士が三者三様の欲望から、人造人間にふり回される様が、なんとも滑稽でした。



「結論って、何の?」
「ですから、ぼくが火星人であるという事実を、事実としてはっきり確認していただくことですね。」
「なんだ、また振り出しに、逆戻り?」
「逆戻りってことは、ないと思うな。だって、先生が、確認してくださりさえすれば、もうそれで上がりなんですから。」

 出典: 安部公房「人間そっくり」  『世界SF全集27』に収録

紹介 :冬寂堂 様
HP :

コメント:
 ラジオ局で《こんにちは火星人》という番組の脚本構成をしている主人公のところに現れた一人の男。
 彼は自分のことを火星人といい、主人公に信じてもらいたいという。最初は軽いつもりで付き合っていた主人公だったが──。
 投稿した台詞は男と主人公との間で何度も繰り返された「男が火星人であるか否か」の論争の話なんですが、男を火星人と信じても、信じなくても結局ここに戻ってくるという奇態な話でして、男をやりこめようとして、逆にやり込められる主人公がなんとも哀れです。
 こういう人、よくいますよね。本人は議論しているつもりでも、結局持論を押し付けてるだけって人。
 なんにせよ、あまりこういう人と付き合いたくはないですね。

駄弁者:
 持論のおしつけというのもその通りなんですが。常識的に考えるとおかしいんだけど、段階を分けて理詰めにされるとどうも反論しにくい、という例でもあるように思います。アキレスと亀の応用編みたいな。



論理的思考とは何か。
全ての現象には必ず理由がある。
思いつきや勘だけで答えを出そうとするのは間違いの始まりだ。

 出典: 東野圭吾原作・福田靖脚本・西谷弘監督「劇場版 探偵ガリレオ『容疑者Xの献身』」

紹介 :新伴仙司 様
HP :

コメント:
 名台詞募集再開お目出度う御座います。
 目出度さも、中くらいなり、とか云われたりしますが。世間一般で『目出度い』と云ってるとしたら、その既存の価値観に疑問を呈するのがSFの醍醐味ですよね(へそ曲がりの、とも云えますが)。でもへそ曲がり度極大のSF的名台詞のインパクトがあんまり強すぎて、深く心の底まで真に受けられると困ることもあるのです。
    「科学者に最も大切なものは『勘』だ」
 イヤ確かにそう言う面もあるのですがね。
 そう言うわけで、小生の論理的な心情として納得出来る台詞を投稿しました。
 原作は科学知識を利用した不可能犯罪を天才物理学者が解明する、『怪奇大作戦』系列の(^^;)本格推理小説です。本作『容疑者Xの献身』はTVドラマ化された原作短編集の、集大成として劇場版になった訳です。
 この台詞はTVスポットに使われた、主人公の台詞です。
 大切なことは、ガリレオ先生が『勘』を否定している訳ではないと云うことです。
 『現象』の『理由』を、まず論理的に解明するべきです。その上で、論理でつながらない部分での発想の飛躍に必要な要素こそが、『思いつき』や『勘』なのだと、小生はそう思います。
 勘も思いつきも大切ですが、使いどころがポイントですね。
 その点論理的思考は使いどころなんか考える必要はなく、常に使えますから便利ですよぉぉ。

駄弁者:
 SFじゃないんですが、すでに出ている名文句の対になる言葉だし、おもしろいので。
 まず論理があって、それをカバーするためにカンを用いる…というのも一つのあり方ですが、逆もアリだと思います。カンで思いついた仮説の裏付けを取るために論理を用いていく、というのも。



<世界はひとつ>(原註・アメリカのコインに刻まれたラテン文字 原意は「多様性の統一」)

 出典: フィリップ・K・ディック「ありえざる星」(仁賀克雄訳)

紹介 :汗(はん) 様
HP :

コメント:
 召使いロボットに伴われ、リガ星系から来た齢350歳という老婆。祖父から聞いた伝説の地球へ行きたいと大金を提示され、アンドリュウス船長は引き受ける。ケンタウルスの情報センターに照会していくつかの候補を得た彼は、言い伝えに一致する星々の中では一番近距離にあるという理由で、エムファー星系を選ぶ。
 めい文句第一号「IDIC(無限多様無限調和)」をみかえして、思い出したのがこの言葉です。
 くわしくは、ネタバレになるので控えた方がよさそうですが、コリエルのリスト・ユニット(ホーガン『星を継ぐもの』)にも通じる印象的な場面で出てくる言葉です。(老婆とロボットの消えた海岸で、船長が足下から拾い上げるのですが、値打ちが分からないのか、捨ててしまいます
 「多様性の統一」をネットで調べてみると、ラテン語で「E Pluribus Unum」というのだとわかりました。
 どのコインにもこう刻まれているそうです。
 アメリカ人なら誰でも、「IDIC」を見ればこれを連想するのかもしれないですね。
『地図にない町』(ハヤカワ文庫NV)所収。仁賀克雄・編訳

駄弁者:
 「IDIC」もメダルに刻まれていたりしますから、きっと元ネタはそれですね。
 「多様性の統一」というとき、「多様性」を認めたうえでそれを統一するというのが理想なんですが、現実はどうも「統一」に重きを置きたがる向きが多いように思えます。「世界はひとつ」という訳もその方向っぽいような…。



「2億年前、地球にはまだパンゲアと呼ばれるひとつの大陸しかありませんでした」
「むむ……負けた……」

 出典: とり・みき「DAI-HONYA(ダイ-ホンヤ)」

紹介 :汗(はん) 様
HP :

コメント:
 多発する、本をめぐる犯罪。非合法化し過激な表現に先鋭化する同人誌。書店テロ。出版業界のかかえるさまざまな問題に対処するため、書店管理官が生まれた。
 超巨大ビル「文鳥堂書店」が開催を予定している「20世紀雑誌展」が狙われているとの情報を受け、派遣された一級書店管理官、紙魚図(しみず)青春。
 自分に与えられた権限の説明と称して「長篠の合戦」にさかのぼった紙魚図の話は、警備主任・高橋に「長い」と止められるが、その後文鳥堂書店社長・天地山冬木が社長訓示で、創業当時の逸話と前置きしてパンゲア大陸の話を始めたのを見て、敗北感にひたる紙魚図。
 無駄にスピーチが長い人を揶揄する「迷文句」ですが、パンゲアを持ち出す人はそうそういやしません。
 …と思っていたら、いたのです!
 年頭の施政方針演説で、鳩山首相は言いました。
「地球のいのちを守りたい。この宇宙が生成して137億年、地球が誕生して46億年。云々」
 政権はいろいろ問題アリですが、これだけは、笑って許します。よく言った!
(ところで天地山冬木って、角川春樹のもじりですよね、やっぱり)

駄弁者:
 私も持っていたので前後を読み直してみたら、ご投稿の文句の少し後で、「文鳥堂書店」のオペレーターが情報を送れと言われて「宇宙が誕生したのは今から100億年ないし200億年くらい前と考えられています」とやってました。さすがこの社長にしてこの社員あり。
>政権はいろいろ問題アリですが〜
 発言のブレを量子ゆらぎにかこつけた発言といい、マクロからミクロまでカバーできるすごいかた。「(笑)」で済ませられたらいいんですけどね。



「郊外の森のなかで、小さな子供たちがセごっこをやって遊んでいるそうです。いとも楽しげに、叫び声をあげ、かけまわり……」
「よし、五名ほど署員をそこにむけろ。逃げる者があれば、すぐ射殺せよ。わたしもすぐそっちへむかう」
 私は無意識のうちに、腰のムチを引き抜き、縦横に空気を切った。気ちがいの卵め。ほっておけば、やつらのなかからアレキサンダーとか、ナポレオンとか、ヒットラーのようなのが出現するのだ。いま、その芽をつみとらなかったら……。
 ムチは鋭いうなり声をあげている。使命感と活力が体内にわいてくる。平和の敵を消毒せよと。

 出典: 星新一「白い服の男」  同名短編集に収録 『世界SF全集 35』にも収録

紹介 :好古真之 様
HP :

コメント:
 「くたばれ軍事ロマンティシズム」政策を、容赦なく徹底的に実行すると、こうなるのですね。
 実際、ここまで極端ではないにしても、平和の維持には何らかの「代償」(「必要悪」と言いかえてもよいかもしれません)を要するとは、よく聞く話です。
 一口に、正しい戦争より不正な平和、などと言いますが(本作にも引用されていますが)、その「不正」は、我々が耐え切れる範囲に納まってくれるものなのでしょうか。
BGM:「白い鴉」蜉蝣

駄弁者:
 自由な軍国主義か、さもなきゃ平和な全体主義かなんて、悪夢の選択もいいところ。方向はどうあれ極端に走るとロクな事にならない。
 この話で一番恐いのは「セ」のあった歴史自体まで封殺してしまうことですね。これでは国や社会の考え方が変わったとき、極端に走るしかなくなってしまいます。



「では、血液でやったのだな?てっきりあの熱は、不潔な空気を吸ったせいで感染したものだと思っていた」
「まあ、たいていの場合そうです …(中略)… ですが、治療の秘訣は血液にあるのです。接種材料こそ軍医が発見し、わたしに伝えた秘訣なのです。しかし一度以上の試みが必要なのは事実です、きちんと感染したことをたしかめるために」

 出典: ダイアナ・ガバルドン「緑のドレスの女」(石原未奈子訳)

紹介 :山家 様
HP :

コメント:
 アウトランダーシリーズ(最新の第6部ではとうとうアメリカ独立戦争が舞台)について駄弁者さまは全20冊と述べておられましたが、実は外伝1冊があり、その作品からの紹介になります。
 この作品には、タイムトラベラーは直接出てこず、謎解きのミステリーが主題なのですが、末尾でイギリスでは「フランス病」、フランスでは「ナポリ病」のマラリアによる治療法が出てきます(ちなみにこの治療法による死亡率は、キニーネを併用した場合に13%以下だったとか。なおキニーネは18世紀には治療薬として既に存在済み)。史実では、この治療法は20世紀になって開発され、1927年に開発者がノーベル賞を受賞した現代でも有効とされている方法なので、18世紀の7年戦争の時代に医師が知っているのはおかしいのです。となると、軍医は実はタイムトラベラーなのでは、としか思えないわけで。
 「俺にはこれしかねえんだ、だから、これが一番いいんだ。」という松本零士の漫画の登場人物の科白を、抗生物質が手に入らないこの軍医はつぶやきながら、悲しみとともに治療法を伝えていたのだろうな、と思いながら読みました。

駄弁者:
 外伝は数えてませんでした。ご指摘感謝。
>イギリスでは「フランス病」、フランスでは「ナポリ病」
 ちなみに日本では「唐瘡」「琉球瘡」。入ってきた方の名前を付けるのは自然なことかも知れませんが、他所様のせいにしたがるのは洋の東西を問わないようで。



軌道計算できます。

 出典: 高千穂遙原作・たまきひさお画「ダーティーペアの大冒険」

紹介 :TWR 様
HP :

コメント:
 月刊コミックリュウに連載される「ダーティーペアの大冒険」の連載予告(5月号より連載)で、たまき氏の自己紹介から。
 やっぱりSF者にとっては、軌道計算の1つぐらいはたしなみですよね。ええ、出来やしませんがね!!

駄弁者:
 軌道計算がSF者のたしなみだったら、私は高校を出る前にリタイアしてます。数学は私のアキレス腱だったし、物理にいたっては選択すらしなかったし…。
 とりあえず「ダーティペア」や「クラッシャージョウ」を楽しむのに軌道計算は要らないですよね!?(要ったらどうしよう)



私もね、兵器を創るつもりだったんだ。だが君を創り出した時、私は激しく後悔したよ。君を生んだことじゃない。祝福なき地に祝福されるべき子を創ってしまったことだ。だから、私は責任を取る。君は兵器なんかじゃない、君は──人として人以上として君は愛されるんだ。

 出典: 広江礼威「SHOCK UP!」

紹介 :サーモンヘッダー 様
HP :

コメント:
 某国で完全無敵の生物兵器として創られた少女、K−8とその開発主任の博士が研究所を脱出する時にK−8が「どうしてフランクさんは、いつも私に優しくしてくれるの? 人間じゃないのよ、あたし」の問いかけに対して博士が答えた台詞です。
 どんなにたくさんのモノを作っても愛情が無かったらただの無機物です。
 一科学者としての創った物に対しての愛が込められていると言葉といっても過言ではないと思います。

駄弁者:
 出典を読んでいないのでズレているかも知れませんが、「創った物に対しての愛」というと、ちょっと語弊があるように感じました。それが兵器でも無機物でも、創った人間には思い入れがあるでしょうから(例えば銘刀とか銃とか)。
 ここで科学者が感じているのは愛というよりもっと硬質な、責任感とか倫理観とか呼ばれるものじゃないでしょうか。



会場に入ってみて驚いた。
ある!ある!ある!

 出典: 浅倉久志「ぼくがカンガルーに出会ったころ」

紹介 :冬寂堂 様
HP :

コメント:
 浅倉久志先生追悼として送らせていただきます。この本は浅倉先生が海外の小説に触れたきっかけからはじまり、小説のあとがき、解説、追悼文などをまとめたもので、先生のユーモアのセンスやや作家さんたちとの触れ合いがよくわかる一冊です。
 投稿した台詞は浅倉先生が大学に入りたてのころ、アメリカのポケットブックスの即売会を始めてみたときの言葉から。
 この気持ちよくわかるなぁ。自分の古書の即売会に行った時には同じようになりますから。きっと浅倉先生には桃源郷のように思えたに違いありません。

駄弁者:
 洋書ではないですが、私もはじめて神田のRBワンダー(今は名前が変わってますが)に行ったとき、そんな感じでした。もっとも「ある!ある!ある! けど、値段が、値段が、値段が…」でしたが。



「地球の平和は、我々科学特捜隊の手で守り抜いていこう」

 出典: 円谷一監督・金城哲夫脚本「ウルトラマン 最終回『さらばウルトラマン』」

紹介 :ゴジリスト中小路 様
HP :

コメント:
 宇宙恐竜ゼットンに敗れ、絶命したかに思われたウルトラマンだったが、「私は命を二つ持って来た」でお馴染みのゾフィーに助けられ、ハヤタ隊員と肉体を分離。ゼットンもイワモト博士の発明した新兵器「無重力弾」で粉砕された。そしてラスト。ゾフィーと共に地球を去るウルトラマンに手を振りながらムラマツ隊長が呟いた一言が、上記の台詞。そぉです。そぉなのです。地球の平和は、地球人類の手で守るべきなのです。そんな当たり前だけど普段あまり考えないようなことを子供たちに伝えて、この番組は終わったのでした。
 と、いう訳で、私が投稿してきた「ムラマツ隊長名言集」も、ひとまず最終回とします。思いつくままにやってきたのでエピソード順もばらばらで、たまに他の作品からの出典も混じったりしてとりとめの無いものになってしまいましたが、お楽しみいただけましたでしょうか?
 またいつか別のテーマで名文句を投稿したいと思いますので、その時にはよろしく。

駄弁者:
 当時番組をみていて、ウルトラマンが敗れたのがトラウマになるぐらいショックだったという方さえいます(156集参照)。その相手を自ら倒したとはいえ、これからはウルトラマン抜きで守り抜こうというのは、なかなか勇気のいる言葉だったんだろうと思います。



SF、科学、理系が尊重される日本の社会と文化に、深く敬意を表します。
そして、厚く感謝しております。

 出典: Boichi「全てはマグロのためだった」著者の言葉 『超弦領域』に収録

紹介 :TWR 様
HP :

コメント:
 Boichi氏が日本でデビューに至った経緯を語った言葉からの抜粋です。
 韓国ではSFを受け入れる土壌がなかったので評価されなかったが、日本ではきちんと受け入れてくれたとのことです。
 日本の昔もSFを受け入れる土壌が無かったのは韓国と同様ですし(このサイトでも時々出ていました)、科学や理系が尊重されているというのは、ハッキリ言って疑問です。この人に理系白書を読ませたら頭抱えちゃうんじゃないでしょうかね。

駄弁者:
 この作品が『超弦領域』に収録されているのを見つけたときは、我が意を得たりと膝をたたきました。
>SF、科学、理系が尊重される日本の社会と文化に…
 尊重されているのかなあ…。めい文句に出ている往事の状況と比べたら、ずいぶんと受容が進んだのは確かですが。
 そう言えば韓国SFというのは、全く見たことがありません。「サイコドクターあばれ旅」(旧)に掲載されている「知られざる韓国SFの世界」によると、日本の「冬の時代」が暖冬に思える有様だったようです。



この子にこのマグロを食べさせることには
きっと意味があると思います

 出典: Boichi「全てはマグロのためだった」  『HOTEL Boichi作品集』に収録 『超弦領域』にも収録

紹介 :TWR 様
HP :

コメント:
 マグロが絶滅した未来、汐崎博士は失われたマグロの復活を目指して数々の発明を行い、地球と人類の危機を救い、さらに超越生命体を生み出し、マグロ型異星人を追いかけて恒星間航行を行う。
 汐崎博士をそこまでマグロに執着させた理由は何だったのか?
 それは、彼が最後のマグロを食べたという事実と、父親の言葉であった。
 何気ない一言が人生を決める、というのはありがちな筋書きですが、博士の苦闘とその終着点を見ると、この一言はのろいのように響いてきます。短編なんで内容を説明するとネタバレになってしまいます。判りにくいのはご容赦のほど。

駄弁者:
 結果としては「ベンツ一台の先行投資で地球を救った」(200集参照)ことになったのですが、このお父さん、当時は心ない非難・中傷の的になったんじゃないですかね(なんとなく政治家か官僚っぽい風貌でしたし)。博士の執着には父の名誉回復への思いも含まれていた…とか、勝手に想像してしまいました。



 一九○五年。明治三十八年。一月二日。午前十一時。水師営の村はずれにある一軒の貧しい農家で、日本軍第三軍は正式にロシヤ軍旅順守備隊の軍門に降った。
…(中略)…
 乃木は軍帽を失ったらしく、汚れた胡麻塩(ごましお)頭をむき出しのまま、中央の席に着いた。その顔は汗とも涙ともつかぬもので濡れていた。
 西郷は黙って巻煙草(まきたばこ)をさし出し、マッチをすってやった。
 「兵隊を指揮するというのは、お互いに辛いことでごわす」
 西郷の言葉に、乃木は顔をくしゃくしゃにした。

 出典: 光瀬龍「所は何処、水師営(ところはいずこ、すいしえい)」

紹介 :好古真之 様
HP :

コメント:
 旅順要塞司令官スミルノフ中将から、旅順防衛の指揮をステッセル中将に代わって一任されたのは、亡命の客将軍・西郷隆盛でした。
 幕末期には悪魔も鼻白むほどの謀略家として暗躍し、戊辰戦争では東征大総督府下参謀として頭脳の冴えを見せた大西郷ですから(数字にも強かったことは、弟の従道が証言していますね)、これは的を射て当を得た人選と評すべきですかね。
BGM:「水師営の会見」森繁久彌

駄弁者:
 前にご投稿いただいた「征東都督府」と同じ「時間監視員」シリーズの一作より。
 「今ぞ相見る二将軍」がこの二人では、タイトル元ネタの歌も作りようがなかったでしょう。
 西南戦争後も西郷が大陸に逃れて生きている…という噂もあったという話ですから、この場面のような悪夢にうなされた高官がいたかも知れません。
 しかし、生きていたら御年77の老将軍ですよ? 年をとって切れ味が衰える人でもないでしょうが、旅順戦に耐えるのはキツそうです。



「すると…」吾輩の声はかすれた。「あんたは…奥さんを殺(や)っちまったのか?」
「家内に永遠の生命を与えてやったのだ」と答えてしゃんと背筋を伸ばした。「もっともそんなことは、今われわれが話し合っている問題とはなんの関係もない。言うまでもなく、家内と──」と言って、かれは小箱に手をのせた「──わたし、警察と裁判所のあいだの問題だ。」

 出典: スタニスワフ・レム「泰平ヨンの回想記(第二話)」(深見弾訳)

紹介 :TWR 様
HP :

コメント:
 ある日、地球で休暇を過ごすヨンの元に一人の科学者が訪れる。長年魂の存在を研究し続けていたその科学者は魂を作り出すはずの人間の脳を調べるためには、人間の脳を破壊するしかないと語った。
 ひと一人殺しておいて、このあっさりとした語り口。やはり、マッドサイエンティストたるもの、目的のためには手段だの倫理だの気にしてはいけませんよね。

駄弁者:
 「泰平ヨンの航星日記」は去年改訳版が出ましたが、これはその後のシリーズですね(こちらも復刊される…見込みは薄いかなあ)。
>ひと一人殺しておいて、このあっさりとした語り口
 本人は殺していないと言ってますし。まあ殺したとしても、それが必要なら倫理は二の次というのがマッドサイエンティストのマッドたるゆえんですが。
 しかし、ソウヤー「ターミナル・エクスペリメント」を読んだときにも思ったのですが、どうして海の向こうの人は「霊魂」の実在にそうまでこだわるかな。



留守と言へ
ここには誰も居らぬと言へ
五億年経つたら帰つて来る

 出典: 高橋新吉「るす」

紹介 :土左衛門 様
HP :

コメント:
 今度こそ受付終了前最後の投稿とさせていただきます。
 背景も何もダダイスム詩人・高橋新吉のこれだけの詩なんですが、これを国語の教科書で読んだ時には時間スケールがひっくり返る衝撃を受けました。
 それでは、約3カ月後に「帰って来られる」のを楽しみにしております。

駄弁者:
 前にご投稿があった「二十億光年の孤独」はさすがに知っていたんですが、今度のは不勉強で知りませんでした。私の教科書には載ってなかったかなあ。
 五億年経ったら、と言いつつ次の週ぐらいに訪ねてみたら当然のようにそこにいて、「二億五千万年を往復してさっき戻ってきたところだ」とうそぶいているとか…。



この地上でいちばんありふれた
いちばん他愛のない未来あるいは
40,000年を超える2分間

 出典: ディズニー・ジャパン/ジーニーズアニメーションスタジオ制作「ファイアボール」プロモーション映像

紹介 :土左衛門 様
HP :

コメント:
 何度か投稿されている「ファイアボール」のプロモーション映像から。
 最後の一行が気に入りました。確かにサブタイトル見るとすごい時間が経ってるんですよね。
 ちなみに、テーブルマナーというのは和平の隠喩、本がプロスペローと名付けられているのはシェークスピアの描く魔法使いが最後に敵を許すことでこれも和平の隠喩なのだとか…、私もよくわかりませんでした。

駄弁者:
 4万年とはいかなくても、1話ごとの時間の間隔が実は十数年もあいていたんですね(地球暦かどうか分かりませんが…)。



何が変なのか?いったいぜんたいあれはなんなのか?
そして彼女は納得した。あのかたちが変なのだ。でこぼこで不規則に次第に細くなっていくところが変だ。

 出典: デイヴィッド・ウィングローブ「白い山(チョンクオ風雲録6)」(野村芳夫訳)

紹介 :TWR 様
HP :

コメント:
 あるとき、シティヨーロッパの残虐な行いで知られる有力者子弟がテロリストによって惨殺される事件が連続して起きた。やがて捕らえられたテロリストは実験台として狩られる立場となり、アフリカの自然の中に放たれる。
 そして彼女を捕らえた恐怖は、シティとはあまりにもかけ離れた光景であった。
 チョンクオの作品世界ではシティ(巨大建築物)の中や周辺で一生を終わる人も少なくないようで、むき出しの自然というものが、それ自体が恐怖として彼女を捕らえたのでした。
 ある立場であれば当然に感じられるものも、立場が違えば未知なるものとして感じられる。
 昔の編集者の逸話を思い出して投稿した次第です(夜のない世界の住人が始めて夜を体験したらどうなる?気が狂○んだ!君はこれを作品にしろ!)。倫理面を考慮して伏せ字で投稿します。

駄弁者:
 山がピラミッドのように規則的な形をしていたなら、私たちは奇異の念と、ひょっとしたら不安も感じるでしょうが、シティの人間にとってはその方がまだしもマシなのかも知れません。
 …アシモフの有名作品の逸話が出ていますが、彼の作品にも閉鎖環境の「シティ」は登場してますね、「鋼鉄都市」とか。こっちの住民は、山の形を不安に感じる以前に、都市の外というだけで広所恐怖症に陥ってしまうのですが。



「心」

 出典: 手塚治虫原作・雪室俊一脚本「ジェッターマルス 第27話(最終回)『明日に向って羽ばたけ!』」

紹介 :土左衛門 様
HP :

コメント:
 本HP中でもおそらく最短?
 東映動画が手塚治虫原作の鉄腕アトムのリメイクに挑んだ作品です(もっとも手塚先生はほとんど関わってないそうですが)
 ラプラス共和国の旅客機が、ラプラス共和国の少年少女オーケストラによってハイジャックされるという事件が発生、彼らは交渉相手としてマルスを指名。だがマルスが話を聞く間もなく彼らは警官隊に制圧されてしまいます。彼らを気にしながらおりしも来日したラプラス国大統領を護衛するマルスですが、なんと大統領を襲ってきたのは以前何度か助けてくれたロボット・アディオスでした。アディオスによると、ラプラス共和国は戦争が続いたために公正な判断を求めてロボットを大統領にしたものの、彼に抑止力として国を吹き飛ばす程の核爆弾を仕掛けてしまったため、ロボット大統領による恐怖政治を敷かれていたのです(そのためアディオスは科学省地下の爆発に耐えられる特殊実験室で大統領を狙った)。そして、オーケストラのコンサートマスターの少女サリーは大統領官邸のコンサートで、ある日本人の科学者と出会い、マルスに助けを求めるよう勧められたのでした。その科学者こそ、事故で行方不明になっていたマルスの創造者・山之上博士だったのです。そして博士がマルスに託した手紙に書かれていたのがたった一字、それが今回の名文句。
 それはマルスを戦闘ロボットとして作り、常々戦闘ロボットには心はいらないと主張していた山之上博士が心を持ったマルスを認めた瞬間、だったのかもしれません。そして、そのメッセージはロプラス大統領の意外な弱点を指してもいたのです。
 古い作品なのでここではバラしちゃいますが、ラプラス大統領は実は自分が死にたくないために、自分を強化するために山之上博士を始め各国の科学者を拉致して自分を強化させていました。彼がロボットであるならばさっさと自分を爆破していてもよかったのに、マルスとは逆に人間的な心を持ったために「死にたくない」と思っているので、絶対自分からは自爆はしない(だから実は抑止力としての爆弾は意味がなかった)、というのがロプラス大統領の弱点だった、というのがオチでした。つまりあまりに非人間的な社会を作った存在が一番悪い意味で人間的であったという、脚本の雪室俊一さんの皮肉だったのです。

駄弁者:
 ジェッターマルスは前にご投稿があったような気がしていたんですが、実際はこれが初めて。
 ここで言われている心って、どういうものなんでしょう。マルスの持っているものも「心」ならば、死にたくないばかりに恐怖政治を行うロプラスの持っているのもある意味「心」です。善悪どちらに針が振れるか分からないという意味では、戦闘ロボットに心はいらない、というのは正しいことなのかも知れません。
>本HP中でもおそらく最短?
 1文字より少ないものなら、考えようによってはこちらが…。



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